損と嘘

観劇雑記/主にミュージカルのこととか書きます

冬とTDVとわたし

忌々しい夏がやっと終わり、冬が近づいてきた。

 
似非センチメンタリストな私はこういう季節の変わり目で安い感傷に浸ってしまうのだが、冬の訪れを肌で感じるのと同じくらい自然に、私は今TDVのムードに浸っている。単に昨年の冬の記憶がTDVで埋め尽くされている影響なのだが。
 
以下、退屈な思い出話。
 
多くのミュヲタの基本スタイルである"贔屓が出ている公演には何度も足を運ぶ。贔屓が出ていなくとも気に入った作品はリピート観劇する。"という姿勢が私の中で確立されたのがこのダンスオブヴァンパイアという作品だった。
 
これまでの私にとってミュージカルはたまに観る程度の娯楽で、観てもせいぜい1回のみというのがルーティンであった。あれほどハマった宝塚も地理的条件や贔屓の退団等々の要因で複数回観劇するという経験はあまりなく、私にとっての宝塚はスカイステージで見る過去の映像が割合の大半を占めていたのである。(創設〜04年頃の宙組に熱を捧げていた。)
 
ヅカオタだった私が初めて外部のミュージカルを観たのは2013年のレ・ミゼラブルだった。ね、遅いでしょう?でもこの年からちゃんと舞台に足を運んでいたらM!もエニシングゴーズもウエディングシンガーもベスもクリコレもクラセンも観られたんだよなあ…バカ…。いやそんなことはさておき、私はこのレミゼに大変感動したため以降はたま〜に東宝作品のチケットをとるようになった。同じ頃劇団四季ウィキッドにもけっこうな衝撃を受け、いくつか四季作品も観に行ったのだが、ライオンキングとかコーラスラインとか有名どころを全く観たことのないぺーぺーの観劇初心者が何故か鹿鳴館南十字星に手を出していた…。
 
そういうわけでふらふらしていた当時の私であったが、軽い気持ちでとった1枚のチケットに運命を狂わされることになる。それがTDVだった。
 
TDVのチケットは、公演フライヤーに載った上口耕平さんのヴィジュアルがあまりにも美しいからとった。なんと単純なことか。小学生並の思考レベルに泣けてくる。
いや、一応弁解しておくと何も私は上口耕平の顔に13000円支払ったわけではなく、実は初演のシスターアクトでヒジョーーにキレのあるダンスを観てから彼のことが少し気になっていたという前提もあった。パブロ役で出演されていた上口さんはダンスもさることながら、全身のスタイルが抜群に良い。1つ1つの体の動きはどこをとっても様になるし、顔も綺麗だ。…結局顔かよ!自分の浅はかさにはウンザリするがとにかく私は上口さんの舞台をまた観たいなあと思った。この時点ではまだその程度の興味で済んでいたのである…。
 
そして、全く何の予備知識もないまま、本当に何の予習もせず(フーン、初演では当日券に1000人も並んだんだ、ホントかよ)くらいの気持ちで観劇日を迎えた。
 
そしたらハマった。
 
まんまとハマった…ヘルベルトに。まさか久しぶりに拝見する上口さんがヒラヒラのキャミソールとスケスケのズボンで髪を振り乱しながら主人公に襲いかかる役だなんて誰が想像できただろう?キレのある動きがヘルベルトの人外感に拍車をかけており、唐突に突きつけられた奇天烈変態ヴァンパイアの前に私は目を白黒させるしかなかった…。意味不明な衝撃を与えられたドキドキがいつしか恋のドキドキにすり替わっていたのだろうか(コラ)、その日から私は上口ヘルベルトのことばかり考えるようになってしまった。当時上口さんのFCがあったら確実に入会していただろう。幸いまだ東京もチケットがあったのでリピーターチケットを購入しもう一度観ることができたのだが、観れば観るほど魅力に取り憑かれるばかりであった(手に負えないですね)。ちなみに家に帰れば手当たり次第youtubeや皆声を漁り間接的にでもヘルベルトを摂取しようとしていたのだが、ブログなどでレポを読むたびに目にするのが「ヘルベルトは吉野圭吾が強烈すぎて…」という感想だった。今思えばこれがフラグだったのかもしれない。
 
作品に関していえば正直初めて観たときは独特のコメディともシリアスとも言えない微妙な空気感や割と話に関係ないような場面をだらだら続ける感じにイマイチ馴染めなかったのだが(今考えると最初は伯爵が主役だという先入観があったから違和感を感じてしまったのかもしれない。あれはアルフレートの冒険物語として観る方が正しい)、2回目に観劇した時からは何故かするすると作品の世界観に呑み込まれていったのである。これは音楽の力が大きいと思う。
また、2回目の観劇時は東京楽が近かったせいか客席の温度がいつもより高めだったことも作品への愛着をもたらす要因の1つになったと思う。ヘルベルトの登場シーンでいえばバスルームから聞こえる「あーあーあー♪」の時点で既に客席からはクスクス笑いが漏れていたし、キャミの肩紐を直すと思いきやずり下げてアルフに乳首を見せつけた瞬間は爆笑が起きた。はっきり言ってこの回、めちゃめちゃ楽しかったのである!私は1階最後列に座っていたが舞台の遠さなど補って余りあるほど楽しませてもらった。幸せな思い出。こういう味わいがあるから劇場通いは病みつきになるのでしょう。
 
で、このとき私は心に決めた。
 
「観劇遠征をしよう!!!」
 
これはどう考えても2回だけでは物足りなさすぎる。東京公演が終わってしまった今、この渇きを満たすためにはもう大阪へ行くしかない。交通費とか宿泊代とかそんなことはどうでもいい。大阪へ行けば、ヘルヘルに会える!!!
 
…観劇後の理性ぶっちぎりテンションに流されるまま、私は大阪公演のチケットを購入した。これが私にとって初の観劇遠征であった。
 
冬の空気の中にいると、ハイライトCDを聴きながら乗った新幹線とか梅田で入った喫茶店とか観劇後にふらふらした三ノ宮のアーケードとかそういった思い出が自然と蘇ってきて切ない。ただ1人で舞台を観に出かけただけのことがこんなに良い思い出として自分の中に残っているのが不思議だ…。
 
私の舞台への入り口はエリザベートだったが、その中でももっとコアな沼地への落とし穴がTDVだったと思う。というかTDVを観る前は同じ作品を何度も観るなんて発想がまず無かった。でも沼に足を踏み入れて、ハードリピートするファンが沢山いることや恐らくそういった層の存在によって客席が連日埋まっているのだということを知った。そしてミュージカルという娯楽が如何に閉鎖的な世界に成り立っているのか少し分かった気がした。顕著な例が宝塚なのだろう。以前はもっと多くの人に舞台の面白さが伝わればいいのにな〜と軽率に思っていたが、最近はむしろこの閉鎖性があってこそ楽しい部分もあるのだから無理に市場を拡大する必要はないのだという保守的な気持ちに変わってきた。そもそも私みたいなミーハーにわかファンが観るミュージカルの大半はエリザを始めとした大人気作品で、こういうヒット作にこれ以上ファンが増えたら益々チケットとれなくなって困る。困る!
 
ミュージカルは麻薬だ。良くも悪くも阿片だ。この沼に嵌ってから確実に銀行口座の残高は減る一方だが(というか貯金という概念すら失くしたが)、めちゃくちゃ落ち込んで死にたくなった時にも「でも○月○日の×××のチケット取っちゃったからそれまでは生きよ…」って気持ちになれる。とりあえず今は12月のジャンクションライブまでは生き延びるつもりです。